先日、とあるセミナーで「切らないゲノム編集」その名も『Target-AID』という
革新的なバイオテクノロジーが、神戸大学等の共同研究により生まれたという話を聞いた。
http://www.kobe-u.ac.jp/NEWS/research/2016_08_05_01.html

「これはなんだか凄そうだ」

しかし、何がどう凄いのか?
詳しく知りたいと思い、まずはこれまでの「ゲノム編集技術」についてまとまっている
本書を手にした。

※ちなみに、染色体、DNA、ゲノム、遺伝子、混同しやすいこれらの用語については以下を参照しました。
https://www.aist.go.jp/science_town/scientist/scientist_01/scientist_01_01.html


NHK「ゲノム編集」取材班 (著) NHK出版
『ゲノム編集の衝撃』は、

ゲノム編集の歴史から先端の研究までを
ジャーナリスト目線で基礎知識が無くても読める様に平易に書かれている印象で、
入門書として最適であった。

ゲノムを操作するという事でいうと、
「遺伝子組み換え」もこの範疇に含まれる様なのだが、
このキーワードを聞くと、
途端にアレルギー反応を示す人も多いのではないだろうか。

しかし一方で、人口増加が止まないこの惑星において、
食料・エネルギー問題の解決手段として、
もしくは、難病の治療への応用等についての期待も大きい。

しかし、微生物から高等生物、
やがては人そのものへの応用へと行き着くと、
科学技術から倫理の世界へと領域を広げる事になる。

つまり、どこかで技術の進むままにするのではなく、
どこかで意志を、とかく社会として、国家として、
ひいては人類史として、どこかで線を引く意志を持たなければならないという事だ。

殺人や窃盗等と同様に「やれるけれど、やらない」という同意事項を、
共通で認識するべき段階に来ている。

今のところ、人への応用が厳しい目にさらされているが、
一方で人へ応用することで得られるものも無視できない程大きいようだ。
難病の治療、特に先天的な遺伝子疾患や、重篤な病態にも劇的な効果が期待できるだけに、
「どこまでをOKとするのか」について、
サイエンスという分野を越えての議論が必要だといった趣旨の
iPS細胞でノーベル章を受賞した山中教授のコメントも掲載されている。

最先端の「ゲノム編集」技術は、
従来の「遺伝子組み換え」とは異なる部分も大きく、
遺伝子組み換えで懸念されている様な害となりそうな部分や、
他の生物の遺伝子を導入するといった怪しげな部分も、
クリアされつつ有ることがよくわかるので、
「遺伝子組み換え」と聞くとアレルギー反応が起こりそうな人にこそ、
読んでいただきたいとも思った。

本書では、冒頭に上げた「Target-AID」の元となった「CRISPR-Cas9」という技術について
特許に論争が有ることや、一方で、研究目的を前提に安価なプラットフォームを形成することで、
技術の浸透と向上の担保に成功している事例などが解りやすく紹介されていて、
ビジネス書としても面白く読める気がした。

また、「CRISPR-Cas9」が世界中で活用されていて
商業ベースでもインパクトのある技術プラットフォームであることからも、
更にそれを越える技術となる可能性を秘めた「Target-AID」の凄さがよりよくわかった。
倫理的な部分を考えると気が重くなる気もする一方、
それが日本から誕生していることも含め、新しい技術の誕生を喜びたいとも思った。

☆行動のヒント
・「やれること」の枠を広げるのが科学
・やれることの中で、何をやらない方が良いのかを考えるのが倫理
・やらない方が良い事の中で、広く合意形成ができそうな物が法律

最後までお読み頂きありがとうございました。

宮木俊明

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