昨日、38日は国際女性デーという事で、”組織風土コーディネーター”の田島靖之さんが主催する「ワークライフバランスについて考える」会に参加してきた。

 これまでは、ワークライフバランスという概念について実はそれほど関心が持てなかったのだが、今回のイベント参加を通じて、自身の中での定義もはっきりし、推進すべき理由もよく理解する事ができた。

 ワークライフバランスとは、仕事を減らして育児や介護の時間を確保する為だけではなく、残業させないようにする事の為だけでもなく、より包括的な「経営戦略」ないしは「人生設計」として取り組むべき課題であり、非常に多くの方にとって示唆に富む内容で有ると感じた為、補足的に調べた内容と併せて、推進すべき背景を含めて共有させて頂きたい。

【我々の暮らす社会】

 言うまでもなく、日本は人口減少社会を目前に控えている訳だが、逆にかつては人口が急増していた時期があり、それは高度経済成長と時期が一致している。

そして、我が国のみならず、経済成長と人口増との相関関係については「人口ボーナス」という考え方で、大枠の説明をすることができると言われている。

 人口ボーナスとは、生産年齢人口の増加率が人口全体の増加率よりも高くなることで、人口に対する労働力が豊富な状態となり、人件費が相対的に低く押さえられ、社会保障費よりもインフラ整備を優先することが可能になる等の好循環が一定期間続き、経済成長が後押しされる状態の事をいう。
かつての日本の高度経済成長や、近年の中国、韓国、シンガポール、そしてこれからのインドがこの人口ボーナス期に相当する。

 これに対して、人口オーナス(onus:重荷、負担)という経済成長が妨げられる状態があり、人口ボーナス後に必ず訪れるとされている。

  生産年齢人口の減少と人件費の高止まりが重なり、人口ボーナス世代の引退により社会保障制度の維持が困難になることなどが指摘されている。
日本は主要国で最も少子高齢化の進行が早く、人口オーナス期入りして久しいが、これがいわゆる「課題先進国」と言われている所以だ。

  人口ボーナス期と人口オーナス期では、社会構造もそこから発生する課題ももちろん異なっており、当然それぞれに対して、よりふさわしい企業の在り方や働き方がある。

人口ボーナス期の特徴】

 高度経済成長の頃の日本の就労環境を想起すると分かりやすいだろう。

(1)男性に適した仕事が多い
 第一~二次産業の比率が高くなる為、肉体労働が多く、男性が優位になる。

(2)労働集約型である
 人件費が低く、時間=成果に直結する為、長時間労働により安く早く大量に作ることが成果になる。

(3)均質な人材確保が有効
 均一なものを効率的に生産することが求められるため、そのために必要な人材も当然、均質さが求められる。また、就業環境が買い手市場のため、労働者の立場が弱く、歯車であることを強いられ、労働時間でしか評価を勝ち取り、コミットメントを示すことができない状況が生じる。

【人口オーナス期の特徴】

 一方、今日の日本の様な人口オーナス期の中では、以下の様な取組が求められる。

(1)男女ともに活躍しなければならない
 肉体労働でなく頭脳労働が中心となり、男女差がなくなるだけでなく、働き手が不足する為、男女の別なく活躍することが望まれる。むしろ、クリエイティブな共感ベースの仕事については、女性のほうにこそ優位性があると見られる向きもある。

(2)なるべく短時間で成果を上げなければならない
 人件費が高止まりするので短時間で成果を出さないと利益が出ないだけでなく、労働による生産から知識創造に価値が移行するに伴い、長時間労働の対価も低下し続ける事になる。この状況の中で、従来モデルで業績を維持しようとする企業はブラック企業化するしかなくなるし、長時間労働にたよった成果の上げ方をしている個人も評価を得づらくなる。

(3)人材のDiversityが成果に繋がる
 生活必需品の供給が一巡した結果、低価格な量産製品が市場価値を失い続ける一方、より高付加価値なもの、具体的にいうと顧客体験をベースとしたカスタマイズされた製品、サービス、ソリューションに利益が集中する様になる。

 この中で、常に他とは違う価値を短いサイクルで提供する必要があるため、多様な人材の確保が利益に繋がる様になってきている。つまり、様々な人が様々な働き方で、価値創造力を発揮できる「土壌としての企業」が時代の要請となっている。
 Panasonicの美容家電の成功が、女性社員を中心に達成された例などが分かりやすいだろう。

【だから、ワークライフバランス】

 以上のことから、人口オーナス期に最適な経営戦略、ないしはキャリアプランニングの指標として、誰もがやりがいや充実感を持って能力を発揮し、人生の各段階やそれぞれの置かれた状況に応じた多様な生き方、働き方を選択・実現すること、つまり「ワークライフバランス」が欠かせないことが解ってくるだろう。

 良くある「ワークライフバランス」のイメージとしては以下のような物があるが、いずれも本質とは異る誤解であるといえる。
・仕事はほどほどにして余暇を楽しむこと
・仕事と仕事以外の生活を同程度に重視すること
・既婚女性の子育てと仕事の両立を支援する少子化対策
・経営にゆとりのある企業による新しい福利厚生やCSRとして取り組むもの

 むしろ、就業時間外に家族の用事を済ませる事だけでなく、自己研鑽や、最近注目されている「副業」の様な多様な体験を通じて、「人口オーナス期における人材としての価値」を高める事に繋がる所にも、ワークライフバランスの価値が有ると考えられる。

 今日、多くの企業が直面している閉塞感の正体は、人口ボーナス期に構築した体制への固執が生み出しているのではないだろうか。その為、これを打破するためには、多様な人材の共創による新しいシステムである「ワークライフバランス」の導入がカギとなる事は容易に想像される所だ。

 また、直接的な就業時間以外の自己研鑽や社外の交流場として、従来の企業主導の研修制度ではない、新しい受け皿も時代の要請となっている動きを感じている、
例えば大企業の若手社員による「One Japan」や、女性技術者及び女性起業家による「Girls In Tech」などの横の繋がりを生む活動には枚挙にいとまがないし、私も取り組んでいる「読書会」の様な異業種交流による自己研鑽の草の根活動が受け入れられているのも、人口オーナス期の特徴として見る事ができるかもしれない。

【導入方法】

 企業でワークライフバランスを向上させる策を導入する場合は、以下の様に、まずは風土改革から着手しなければ、なかなかうまくは行きづらいという。

①評価制度を変える
②就労時間の見直し
③時短勤務やテレワークなどの制度化
④採用方針・制度を変える

 この順番を逆にしてしまうと、採用時の理念と現実のギャップが大きすぎて、離職率と採用コストが上がるだけなので注意が必要だ。多くの場合、既存社員の中からロールモデルを誕生させる事が理想的で、その為にはそのロールモデルが「刺されない仕組み」を練りこんで置く必要があるだろう。

【女性の活躍と出生率】

 これまで見てきた通り、ワークライフバランスは、女性の社会進出のためだけの概念では無いが、結果として、「出産」というライフイベントがある女性にとって、活躍しやすい環境が構築される事にはなる。

 もちろん、障害のある方々や、LGBTの方々等、これまで構造的に第一線から排除されてきた方々の活躍が始まるだろうし、いち早くそういった環境を構築することが差別化や独自の価値提案として、業績にも繋がるだろう。

 その中で、出生率の問題に際しては「女性の社会進出が出生率の低下の原因だ」という意見も根強いが、これは明らかな誤りである事を示しておきたい。例えば、日本は諸外国に比べて専業主婦率が非常に高いのに出生率が低いのはなぜかと考えてみるとどうだろうか。

 まず、少なくとも「女性が社会進出しているから、出生率が低い」という考え方は統計的に否定されている。
https://www.google.co.jp/amp/s/www.nli-research.co.jp/report/detail/id%3D42592%3Fmobileapp%3D1%26site%3Dnli

 次に、国際比較にも面白いデータは沢山あるのだが、我が国に限っても、都道府県別にみると、子育て世代(25-39 )女性の就業率と出生率との間には正の相関がある事の方が分かりやすいかも知れない。加えて、例えば「千葉県内の市区町村同士の比較」の様なかなり局所的なデータにおいても、 全国よりも緩やかであるものの正の相関がみられる事も参考になるだろう。(特殊な人口動態の都市を除く)
https://www.crinet.co.jp/economy/pdf/20141126.pdf

 要は、世帯収入を上げる事が、第二子、第三子の誕生を促す要素として大きいという事だ。世帯所得が高い方が子供を産み育てやすい事は容易に想像がつく筈だ。
また、これに加えて必要なのが男性による育児であって、男性の育児参加と第二子以降の出生率にも正の相関がある様だ。言うまでもなく、男性の育児休暇取得や時間に縛られない働き方等もワークライフバランスの一つだと、自戒も込めて付け加えておきたい。

 単純化はできないが、女性の就業率向上が出生率を低下させることは無さそうで、むしろ向上させる可能性があることが解ってきている。そして、その為に必要なインフラとして、取り沙汰されている待機児童の問題も含めたより積極的な子育て支援策が必要になってくる訳だ。

【最後に】

 急激に進行しつつある「少子高齢化」と、やがて訪れる「人口減少」という未知の社会状況が目前に迫り、これまでのやり方では社会制度の維持はもちろん、それの向上や経済成長なんて臨むべくもない状況にある「課題先進国」日本において、社会全体でワークライフバランスが上手く達成される事は、世界に先駆けたソーシャルイノベーションであり、モデル国家として世界人々の健康的な生活に貢献できる、大きなチャンスが目の前にある。

  日本の特徴として、諸外国に比して女性の産後の就業率の低さが目立っている。しかし、逆にこれが日本の潜在能力であり、伸びしろであると考えると未来が明るくみえて来ないだろうか。
この中にあって、男性にできる最大の社会貢献が「女性の支援」であると言っても、決して言い過ぎではないだろう。

 

☆行動のヒント
・過去の栄光にしがみつかない
・時代を先取りした能動的な変化がソフトランディングにつながる
・社会の要請を感じ取る

最後までお読み頂きありがとうございました。

宮木俊明

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