「イノベーションのジレンマ」で有名な
クレイトン・クリステンセン氏の一連の著作や、
リーンスタートアップやデザイン思考等、
製品開発やイノベーションに有効な手法が広く知られており、
(それらに全て沿っているかどうかは別にしても)
多くの成功例が共有されているのに、
実際にやってみると「売れない商品・サービス」ができてしまう。

もちろん、「失敗は成功の母」であって、
「できるだけ早く失敗をする」というのは
リーンスタートアップでも本質的な考え方であって、
失敗自体に問題が有るわけではないだろう。
よく言われる通り、まずは、
失敗から「何を学ぶか」が、
とにかく重要だという事に尽きる。

そこで今回は、書籍や講演、
そして主に失敗で構成された実体験と、
周囲のイノベーターから聞いた実例を咀嚼し、
典型的な「失敗の原因」を4点ほどにまとめて示し、
思う所を共有させて頂きたい。

【敗因1:ものづくり信仰】
ものづくり信仰は、保有しているリソース(技術、既存製品、ノウハウetc)を拡大して
製品・サービスを開発する「提供者目線」の典型であり、
「高機能の製品を作りさえすれば売れる」という神話の元になっている。

逆に、提供者目線ではなく顧客目線で、
顧客は製品がその製品やサービス自体が必要なのではなくて、
「そこから得られる便益」が必要とされているのだという発想がある。

これが、ゼロベースで顧客を観察し、共感を出発点するデザイン思考や、
早めに最小限のプロトタイプ(試作品)を作成して
「実際にテストをする」事で顧客の反応を見ながら開発を進める
リーンスタートアップでも、
正に中心に据えられていると言えそうだ。

所が、提供者目線での「ものづくり信仰」が
ハイテク分野などにおいては、成功例も多いと言われていたりする。

その根拠として有名なのが、スティーブ・ジョブズとヘンリー・フォードの言葉だろう。
「顧客は自分たちの欲しいものはわからない」
「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう。」

しかし、スティーブ・ジョブズやヘンリー・フォードは、
本当に提供者目線による「ものづくり信仰」であったのだろうか?

【敗因2:顧客の”声”を聞く】
実のところ、顧客は自分の真のニーズを言語化できない為、
アンケート等をとって表層の意見を集めても、
真に求めている「便益」は見えてきづらいのだ。

その事を踏まえて誤解を恐れずに言うと、
要点はたった1つしかない。

既存のリソースに引きずられず、
顧客の「声」すらも無視して、
「ゼロベースで顧客の”行動”をしっかり観察する」
という事だ。

表層ではなく本音を炙りだす為に「行動観察」等から始まる事が多いデザイン思考。
思い込みを捨て、さっさと顧客にプロトタイプを提示してしまい、その「反応」を見ようというリーンスタートアップの手法。

スティーブ・ジョブズやヘンリー・フォードの言葉は言い換えると、
「顧客の”声”に応えるのではなく、顧客が欲しがっている”便益”を提供しなければならない」という事になる。
最近良く耳にするUX(顧客体験)ベースの事業開発もこれに該当する。

実際に提供者目線だけで成功した様に見える例もあるが、
多くは、それは提供者が「提供者であると同時に顧客でも有る」場合でしかない。
言うまでもなく、この場合は、
開発過程に意図せず顧客目線が織り込まれる場合があり得るからだ。

一方で介護用品や子供向けの玩具であれば、
その「顧客ではない人間」が開発する事が殆どなのでこのケースには該当しない。
その為、例えスティーブ・ジョブズだったとしても
「顧客」に寄り添い、観察する過程を経ることなくヒットを生み出す事は難しかっただろう。

【敗因3:顧客を間違える】
ここで見極めなければならないのが、「真の顧客は誰なのか?」という事だ。
例えば、医療機器の開発等でよくあるのが、
購入者である「医師」の意見に基いて製品を作ってしまうこと。

実の所、先述した「顧客の”声”に左右されてはダメだ」という点の他に、
「真の顧客は別なのかもしれない」という点を良く考えなければならない。

具体的には、例えば医療機器の場合、まずは真の顧客は患者である。
更に、直接それを使用するのは医者ではなく
看護師や救急隊員等の別の医療従事者で有ることも多く、
使用場面のリアリティを持っていない「権威の有る先生」の言葉を真に受けても
製品開発の成功には繋がりづらい。

また、複数の顧客がいるケースもある。
例えば、「子供の玩具」は購入者である親と使用者である子供、
「介護用品」は要介護者と介護従事者の両方が顧客になるだろう。

【敗因4:業界の老害】
しかし、顧客目線で本音を捉えた製品・サービスの開発がスタートしても
あらぬ方向に引きずられて売れない商品・サービスができてしまったり、
あるいは可能性を否定されて中断に追い込まれてしまうケースもある。

それが、医療における「権威のある先生」に限らず、
「作れば売れる」時代を経験し、
ものづくりで成功してしまった方々が引き続き権威として業界や社内に君臨している等の、
いわゆる「老害」だ。

顧客の本音ではなく、「老害」たるご意見番の意見を忠実に再現した挙句
その意見を出した本人すら購入しないような製品・サービスが出来上がってしまう悲劇も起きている。

大企業によく見られる「イノベーションのジレンマ」の要因もここに含まれるだろう。


【まとめ】

「真の顧客」が誰で、
「真に求められている便益」が何なのか。

資金調達やチームマネジメント、レギュレーションへの対応などに振り回されつつも、
それに注目をし続けなければならない所が、
イノベーターに突きつけられた難題であり、
また面白い所でも有るのかも知れない。

☆行動のヒント
・誰を幸せにしたいのか?
・その為に何を捧げるのか?
・そういった目的を常に忘れずにいる

最後までお読み頂きありがとうございました。

宮木俊明

読書会等のイベントスケジュールはコチラ!